残したい技(2)挿し木で独自の松を輩出
香川県綾川町の尾松錦生園4代目、尾松和人さん(46)は挿し木で錦松を増殖し、全国に供給している。脱サラして自園を継いで17年、毎年7千本ほどの苗を育てている。台木のいらない挿し木、7~8年培養すると出荷の時を迎える。
活着率は7割強
樹種は、尾松さんの祖父で2代目の故肇さんが1959年に世に出した同園オリジナルの錦松「富士」。通常、松は挿し木が難しいとされるが、「富士」は挿し木しやすいのが特徴。活着率は7割以上だという。
芽が動き出す4月上旬が挿し木の適期で、今は作業を終えたばかり。これから水やりを繰り返し、翌年春にベッドに植え替え2年培養、切り込んで畑へ移し2年置き、再度切り込み次の年に鉢上げし出荷となる。
日常の作業で厄介なのは除草だ。尾松さんは広い苗床で育てるより、いきなりポットに挿す方法も検討している。ポットなら天候によって動かせ、除草も楽になる。挿し木の難点とされる根張りの悪さも解消できるかもと考えている。
多幹を生かす
挿し木で育てると双幹や三幹など、多幹の樹ができやすい。芽(ロウソク)を取り除いて挿すため、夏場に芽が多く吹き出してくるという。これは盆栽としては歓迎すべきことで、尾松さんはこの利点を生かしながら素材を培養している。
尾松さんが、最近力を入れているのは、錦松の台木に五葉松を接いだもの。錦松は幹が割れて低接ぎは無理で高接ぎしかできないため、適当な素材の確保が難しいが、幸い台木は自園に豊富にある。近い将来、錦松の古木感、五葉松の育てやすさを併せ持つ松の輩出を夢見ている。
尾松さんの願いは盆栽の裾野を広げること。「日本の良き伝統を守るため、広い世代に親しんでもらいたい」と話している。
(ライター・羽野茂雄)