残したい技(1)素材生み出す「接ぎ木」
香川県高松市国分寺町、綾松園の綾田正さん(75)は接ぎ木の名手として知られている。接ぎ木は親木の性質をそのまま受け継ぐ増殖法で、実生や挿し木の難しい樹にも有効だ。綾田さんは10種類もの松の接ぎ木を行い、資源保護に貢献している。
縁の下の力持ち
綾田さんの接ぎ木歴は半世紀にも及ぶ。専門的に取り組み始めてからも30年は上回る。「果たして何本世に出したのかな。中には名木に育ってくれているものも…」と笑う。
日本一の松盆栽産地にあって、綾田さんは自らの仕事は素材の供給と割り切っている。「盆栽の名品は日本文化を代表する芸術品だが、それを作るのは国分寺、鬼無の誇る作家たち。彼らに豊富な素材を提供するのが私の役目。興味のある人が買って育ててみようかと思う気軽な素材もあっていいのでは」と、縁の下の力持ちに徹している。
資源枯渇が懸念される昨今、潤沢な素材を生み出す綾田さんの卓越した技術にかかる期待は大きい。
多彩な技を自在に
綾田さんの畑には、接いだばかりの苗木がズラリと並んでいる。人気の千寿丸や千寿姫、夢錦、黄金、寸梢、蛇の目など10種類にも及び、色合いも多彩だ。
千寿丸は黒松寿の突然変異で同じ樹から黒松寿八ツ房が生まれた。芽が多く葉が短くて緑が濃い。樹形ができるのが早く、小品に適している。千寿姫は千寿丸とは対照的に、葉が柔らかくて女性的だ。
綾田さんは、台木の根元に接ぐ「低接ぎ」、先端を割いて穂を差す「高接ぎ」、枝のない部分に枝を作る「幹接ぎ」など多彩な技を自在にこなす。いずれも接ぎ目を目立たないようにするのが重要。接ぎ木のコツを「知識、経験、技術、そしてセンス」と言う綾田さん。将来を考え、若手への技術継承にも力を入れている。
(ライター・羽野茂雄)