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盆栽主義

鉢の中の小宇宙・盆栽の魅力に迫る地元四国新聞の連載記事

実生で育てる 大量の素材作りに最適

2010年8月8日

 盆栽のタネ木は山採りが理想だが、ほぼ取り尽くされ品薄状態になっている。そこで、多く用いられるのが実生である。接ぎ木や挿し木のように親木の性質をそのまま受け継ぐものではないが、大量の数を作るには最適な手法である。

種選びも大切

 高松市鬼無町、神高松寿園4代目園主、神高恵二さん(50)は、実生で多くの苗木を育てている。自園の畑には、1年生、2年生、3年生など多くの実生苗が出番を待っている。

実生黒松の世話をする神高さん
実生黒松の世話をする神高さん=高松市鬼無町、神高松寿園

今年3月にまいた赤松や黒松も7月には5センチくらいに育っていた。秋には10センチ、1年後の春には15センチを超えるほどに成長するそうだ。

今年3月に種をまいた苗
今年3月に種をまいた苗

 種は園内や畑で採取するが、足りない分は山で補っている。皮相のいい木から取った種はいい皮が出る確率が高いという。葉が密生し色が美しく、樹皮のよくはぜているものがタネ親としては理想的だ。10月ごろにまだ緑色の松かさを収穫して天日で自然乾燥させて種を取る。

黒松の種
黒松の種

愛情もひとしお

 通常、種をまいて2年目に接ぎ木の台木にするが、接ぎ木せずにそのまま育てる場合もある。若いタネ木は柔らかく、細かい曲をつけることもできる。

 神高さんは「実生は自然の山採りのように驚くほどの妙味はないが、苗木から手をかけるため、いい素材を大量に得ることができる。人の手でじっくり作り上げるため、愛情がこもる。山取りが激減した今、素材作りは実生に頼る部分が多い」と話している。

実生で育てた樹齢約60年の黒松
実生で育てた樹齢約60年の黒松

 実生の苗は、盆栽としてある程度の形に仕上がるまでに長い年月を要する。息の長い仕事だ。松寿園には、神高さんの先代から40~50年間丹精込めた黒松が並んでいる。枝ぶりや幹肌ともにここまで時代が乗ってくると、風格は山採りの古木にも引けを取らない。

(ライター・羽野茂雄)

キーワード:実生 神高松寿園 鬼無