取り木の魅力 樹形の長所と性質生かす
盆栽の培養で、接ぎ木、挿し木、取り木などは、親木の性質をそのまま受け継ぐ。中でも取り木は、盆栽の一部を切り取るため、性質だけでなく、樹形の長所まで生かせる技だ。香川県高松市鬼無町、神高松寿園3代目の神高藤義さん(75)に名人芸を見せてもらった。
3カ月ほどで発根
神高さんは、実生で育てた樹高60センチ、樹齢30年ほどの黒松を素材に選んだ。立ち上がりの幹より上部の幹が太く、バランスが悪いのが理由だ。切り取る部分に印をつけ、のこぎりで深さ1センチ弱の切り目をつけ、鎌で幹肌をはがしていく。甘皮も残さずはがす。上部に発根剤を塗り、水ゴケと土を混ぜたものを張り付け、針金でとめる。さらにポットで器を作り、土を入れる。
こうして養生すると3カ月ほどで発根し、翌年春には親木から切り取ることができる。水を欠かさないことが大切だ。
取り木した直後は、どうしても根張りが貧弱で枝葉の風格にそぐわないが、年数を経ると山取りと変わらない名木に育つ。
短期間で好素材
山取りの素材が激減した昨今、取り木は優れた素材を入手する良策である。1本の親木から、何本も取れる場合もある。樹高の高すぎる木は切断して2本にすることもできる。そのままでは引き立たない盆栽も一部を切り取る改作で生まれ変わる。しかも、親木と同じ性質を持っているため、葉性や皮性のいい親木からは同様の素材を取ることが可能だ。
取り木の適期は5~6月。適切な時期に取ると、短期間で太い幹の素材が得られる。しかも、取り木した跡は外見ではわからない。
神高さんは「どの部分を切るか、見極めが難しい。イメージ通りええのが取れたら気持ちがいい。淡路産のような荒皮性の松が取りやすい」と話している。
(ライター・羽野茂雄)