黒松(3)実生から育てる 長年かけて備わる風格
山採りや島木が激減して以来、実生や接ぎ木、挿し木など人工的な育て方が増えてきた。自然任せの造形が特徴の山採りに対し、実生や接ぎ木は人の手で形を作り上げる。そのため、質のそろった松を大量に育てられるメリットがある。
上質の素材大量に
高松市国分寺町、間嶋園の間嶋猛さん(59)は、黒松を実生から育てる名手として知られる。棚場の約8割が実生という園内には、樹齢40年以上の松が並んでいる。
自然界で少なくなってしまったいい松を人工的に作り上げる実生や挿し木は、ある程度の形に仕上がるまでに長い年月がかかる。それでも30年、40年ものになると、山採りにも引けをとらない風格が備わってくるようだ。
実生は、山採りがなくなるとともに、畑に苗木を植えてそれなりのものを育てようと始まった。昭和40年代半ばの国の減反政策が拍車をかけた。当時の国分寺は錦松が中心で、北部地区は一面に松畑が広がっていた。
実生から育てると、小さな苗木のころから人の手を加えるため上質の素材が大量に得られるというメリットがある。樹形の調整も自在だ。
クローン苗
挿し木は、比較的根張りのいいものが得やすい繁殖方法である。皮性や葉性のいい穂木を挿し木すると、親と同じような性質の木をたくさん作ることができる。いわゆるクローン苗である。
いずれも苗から作りこむため、幹模様、枝配りなど、成長後の姿も予測できる。通常2年生の苗木に針金をかけて模様を作っていく。
松を実生や挿し木で育てるのは、息の長い仕事だ。日々の丹精が欠かせず、年月を重ねないと味は出ない。
間嶋さんは「ある時だけ頑張ってもだめなんです。毎日の世話が大切。昔から、いいものは三代かかるとも言われています」と笑う。その言葉どおり、間嶋さんの園では先代から引き継いだ名品がさらに進化中である。
(ライター・羽野茂雄)