出上文雄さん(出上吉洸園)
「自分が気に入る出来でなければ売らない」と明言する出上吉洸園の出上文雄さんは、針金掛けを得意とし、独自の作風にこだわっている。
キャリアは40年。父が会社勤めの傍ら経営していた盆栽園を手伝うことになってから、本格的に勉強を始めた。「やるからにはせめて平均的なレベルを目指そうと心に誓い、先輩方に育ててもらった。盆栽ブームが過熱する中で良質な素材が減っていたこともあり、人と同じことをやっていては競争できないと思い、自分なりの作風を追求し続けて今に至ります。難しい道を選んだが、今になって結果が見えてきたように思う」。
針金を交差させずに巻く、春ではなく秋に肥料をやる、葉を短く整えるため水や植え替えをなるべく減らすなど、長年の経験から独自の作り方を編み出している。針金掛けによる整姿は鉢に植えてから行い、シンプルな造形の中に絶妙なバランス感を表す姿を、出上さんは「不均衡の中の均衡」と呼ぶ。棚場に並ぶのも、自分で整姿したものばかりだ。
お客の目の前で最後の仕上げを行って渡すなど、技術を公開するデモンストレーションも大切にしている。「プロの技を隠す必要はない。ブームも経験したが、職人が競い合い磨き合ってともに成長し、過去を超えていかなければ。大量生産・大量消費から、いいものを高く売る時代になってきていると思う。盆栽の真髄を守り伝えながら、地元の特産品を盛り上げていきたい」と、力強く語っている。