道具のいろいろ(上)名品のために惜しみなく
盆栽づくりには、さまざまな道具が必要だ。とりわけ盆栽作家たちには、作業効率を上げるだけでなく、作品の出来にも影響する大切なものだ。香川県高松市鬼無町、中西珍松園5代目、中西陽一さん(42)に体の一部ともいえる愛用の道具を見せてもらった。
効率性と繊細さと
一番なじみの深い道具は、はさみだろう。剪定(せんてい)ばさみは素人にも欠かせない。白色はステンレス製で、右から奥の方の枝切り用、太い枝切り用、芽切り用、芽摘み用、下の黒色も芽切り用だが、こちらは鉄製。ステンレス製は、鉄製に比べてやや値が張るが、手入れが簡単でさびずに長持ちするようだ。
「仕事で使う以上、道具もある程度のものが愛着もわく。いいものは使った感じや音も違う。修理もできるし」と中西さん。
針金を切ったり外したりするはさみも多彩だ。こちらも白色はステンレス製、黒色は鉄製だ。刃先の曲がったものや柄が長いもの、手のひらに隠れてしまうほど小さいものもある。
枝切りばさみも、刃先が丸いもの、とがったもの、切り口が下に付いたものなどさまざまである。
道具は樹(き)のために
主なはさみだけでも、これだけの種類がある。それだけ用途も多いということだろう。盆栽作家は枝の場所や太さで、はさみを使い分ける。適切な道具を見極める力も必要だ。しかも、切った直後の姿だけでなく、樹の成長も予想しながら切り口を考える。もちろん繊細さも要求される。
道具の選び方や使い方は、先人の知恵や経験から得るものが多い。しかし、中西さんは「恐れずトライすることも大切だ。失敗してもそこに進歩や成長がある」と話す。そして、生き物相手だけに「道具は職人のためでなく、樹のためにある」。そう信じている。
(ライター・羽野茂雄)