針金かけ(上)樹形づくりの決め手に
盆栽作家たちの腕の見せどころとなる針金かけ。樹(き)の値打ちを決定づける高度な技術である。作業は、樹が活動期に入る3月中旬までが適期とされる。活動期に入ると、樹が水を活発に吸い上げ、枝に粘りが少なくなるからだ。出上吉洸園=香川県高松市鬼無町=の出上文雄さんに針金かけのポイントを聞いた。
新木の魅力
針金をかける前に、葉をすかし、不要な枝を切除する。当然、仕上がりの姿までイメージして切る枝を考える。どの枝を残してどの枝を切るか、熟慮を重ね、切るときは大胆に、思い切りが必要だという。
出上さんは、今回の針金かけに山採りの斜幹の黒松を選んだ。幹肌の割れ具合や自然の風雪に耐えた舎利の姿から、樹齢は150年を超えるとみられる。鉢での培養が長く、まだ一度も針金をかけたことのない新木である。
出上さんは「他人の手が入っていない新木の最初の作者になるのは、ワクワクします。切除する枝も、ジンにするなど、樹の可能性を最大限に生かしたい」と熱い思いを語る。
事前の保護も入念に
鉢で長く培養した樹は枝がしなやかである。さらに樹齢150年を超えるような古木には繊細な気配りも必要だ。
そのため、出上さんは、針金をかける時に枝が折れたりしないよう、マダガスカル原産のラフィアヤシの葉の繊維で作ったひもで保護する。時間がたつとひもは自然に朽ちる。
出上さんの作風は、自然に忠実に、無理な造作はしない。どこかに枝がほしいというような場合、そこに枝を接ぐ技法もあるが、あえて行わない。自然にあるがままの姿に勝るものはないと信じている。40年を超える盆栽歴で培ったこだわりが伝わってくる。
(ライター・羽野茂雄)