接ぎ木(上)親木の性質そのまま増殖
盆栽の主な増殖法に山採り、実生、挿し木、接ぎ木、取り木がある。山採りは長年の採取で激減し、種から育てる実生は思い通りの個性を出すのが難しい。その点、挿し木や接ぎ木は親木の性質をそのままに増殖することができる。香川県高松市国分寺町、綾松園の綾田正さんに接ぎ木の魅力を聞いた。
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温暖化で適期早まる
松の接ぎ木は通常2月中旬から3月中旬が適期とされている。ところが、近年の温暖化で1月下旬には接ぎ木のシーズンが始まる。接ぎ木の名手として知られる綾田さんも連日作業に追われている。
このところの人気は、黒松の「寿八ツ房」、「寸梢」、赤松の「蛇の目」、「折り鶴」などの品種だという。「折り鶴」は葉の先が折り鶴のように曲がる品種である。
綾田さんの畑に「千寿丸」と命名した黒松寿八ツ房の親木がある。下部は黒松寿だが、突然変異で上部は黒松寿八ツ房になっているのがわかる。この親木から、次々と黒松寿八ツ房の苗木が生まれている。
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知識が大切
接ぎ木は黒松実生の2年生苗を台木にする場合が多い。根の生え際に斜めに切り目を入れて接ぐ「低接ぎ」、木の先端を割いて穂を差し込むように接ぐ「高接ぎ」、さらに枝のない部分や枯れてしまったところに接ぐ「幹接ぎ」などの手法がある。台木や穂木の性質を見極めながら、さまざまな方法で将来性のある苗木を仕立てるのが接ぎ木の醍醐(だいご)味だ。
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接ぎ木のコツを綾田さんに聞くと「知識、経験、技術、そしてセンス」と明快な答えが返ってきた。接ぐ時期、台木や穂木の状態、管理などの知識が一番大切だという。
接ぎ木で難しいのは、接ぎ目を自然に見せること。これができるには高い技術と経験が求められるのは言うまでもない。
(ライター・羽野茂雄)