樹形(3)懸崖と多幹 バランスの取り方肝
より自然の姿に近い樹形に懸崖と多幹がある。懸崖は自然の厳しさ、多幹は自然の雄大さを表現するものであるが、どちらもバランスの取り方が肝心な樹形である。
崖っぷちの老樹
幹が大きく垂れる懸崖は、深山や海岸の断崖で長年の風雪に耐えながら育った老樹を連想させる樹形だ。枝の先端が鉢の底より下まで垂れていれば「懸崖」、鉢よりも上にあるものは「半懸崖」と呼ぶ。
当然のことながら、根張りは垂下している幹の反対側が力強い。鉢とのバランスが重要で、安定させるため深めの鉢に植えることが多い。
香川県高松市国分寺町、はるちゃん盆栽の岡田利幸さん(58)は、枝が70センチも垂れた山採り黒松の懸崖を育てている。
岡田さんは「樹齢は100年を超えているらしい。人の一生よりも長く、そのため幹肌に力強さと深い味わいがある。国風展に出しても恥ずかしくない風格と言われています」と、懸崖の魅力を語っている。
全体の調和が大切
幹が2本に分かれているものや、途中から二またに分かれている木を双幹という。3本に分かれているものは三幹、5本の場合は五幹で、双幹も含めて多幹と呼んでいる。
主幹があって、脇役ともなる幹があるのが一般的で、全体の調和が重要なポイントとなる。もちろん、幹の数が多いほど調和をとるのが難しい。
香川県高松市鬼無町、神高福松園の神高国広さん(65)は、幹が5本に分かれた五葉松の九重を培養している。
神高さんは「3年ほど前の競りで、整った樹形が目に飛び込んできたので購入した。5本の幹のバランスがいい。ちょうど家族が揃[そろ]ったような温かい雰囲気が気に入っている。幹肌の味わいから樹齢は80年ほどだろう」と話している。
(ライター・羽野茂雄)