錦松(3)夢錦の親木 手間いらず作りやすい
香川県盆栽生産振興協議会が2000年に開発した錦松の新品種「夢錦」は当時、鬼無、国分寺、綾南の各産地に1本ずつ親木が託された。高松市国分寺町では、綾松園の綾田正さん(71)、正人さん(47)父子が親木を大切に守っている。
見事な皮性
正さんは綾松園初代で盆栽歴は約半世紀。これまで錦松を中心に扱い、今も7割ほどが錦松だ。正人さんは長年の農協勤務で盆栽部会を担当し、06年に退職して親子で盆栽づくりに勤(いそ)しんでいる。
正さんは国分寺を代表する接ぎ木の名手で、自園には接いで間もない苗木の棚が広がっている。その技術が評価されて白羽の矢が立ち、大事な親木を預かることになったのだろう。
「この松は錦松の命とも言うべき皮性が格段にいい。硬くて幹の割れ方も豪快。葉性もよく葉が太くて緑が濃い」。正さんは、夢錦の利点をよどみなく挙げる。
短期間で古木感
夢錦は太るのが早く、年数をかけなくても古木の雰囲気が漂う。接いで3、4年もするとなかなかの姿形となり、開発当初から育てたものは、すでに名品の風格さえ備えている。
農協で販売にも携わってきた正人さんは「これからは50年も60年も育てるのは時流に合わない。短期間で育つものが歓迎されるはず。芸術的で高価な盆栽も重要だが、誰でも買える手ごろな品も必要。気軽に始めて、徐々に腕を上げてもらうのが人気回復の早道では…。安価な素材を探し、手塩にかけて育てるのも面白い」と話している。
夢錦は栽培が難しいと敬遠する人もいる。それがいまひとつ普及しない原因にもなっているが、正さんの見解は異なり、「錦松だから針金かけも不要だし、ほかの松ほど手間がかからない。木の性質さえ理解すれば、とても作りやすい品種だ」と話している。
早く育つため短期間で出荷でき、小品や中品の人気も高まっている。「これからの錦松はやっぱり夢錦です」。親子が声をそろえた。
(ライター・羽野茂雄)