錦松(2)夢錦 15年かけ選んだ新品種
香川県盆栽生産振興協議会は2000年に錦松の新品種「夢錦」を発売した。実に5万本の錦松の中から15年の歳月をかけて選抜したという鳴り物入りの品種である。
小型に人気集中
夢錦は、錦松の中でも葉性がよく、葉の緑色が濃い。極早生種で皮が早く割れ、育てやすい。さらに、従来の早く割れる品種は虫が付きやすい欠点があったが、それもクリアしている。開発までに時間と手間がかかったため、当初は苗の値段が高かった。しかし、現在はそれも落ち着いてきている。
高松市国分寺町の清樹園の谷本善数さん(76)は、夢錦専門に取り組んでいる。亡父利兵衛さんの時代から錦松を中心に手がけてきたが、小さい盆栽に人気が集まるようになると、大きな鉢物に見切りをつけ数年前に処分した。現在は夢錦、それも小型のものを育てている。
夢錦もほかの錦松と同様、自然に育てると人の背丈ほどにも成長する。谷本さんが鉢上げしているものは大半が15センチ前後、畑にも同程度の苗が植わっている。剪定[せんてい]の仕方で、樹高は変えられるという。その背景には、1975年ごろ錦松の小型化に挑戦して失敗を重ねた苦い経験が生きている。
誰もやらないものを
谷本さんの盆栽観は徹底している。「誰もやらないものをやらないとダメ。どこにでもあるものは売れない」。亡父の教えでもある。
そして、「盆栽市やイベントでは愛好家の声に耳を傾けなければならない。現在は、いろいろな事情から大きいものは敬遠されている」。国分寺の盆栽界でも最年長クラスながら考え方は柔軟だ。
谷本さんの夢錦は、8年生でも樹高13センチ。マンション暮らしの人が玄関や靴箱の上に置くにも格好の大きさだ。「それと、大きいものの間にはさんで送ると運送費がかからないんですよ」。隠れたメリットも教えてくれた。
斬新なアイデアで頑張る谷本さん。周囲も認めるち密な技術が末永く伝わることを祈るばかりだ。
(ライター・羽野茂雄)