五葉松(3)小さく育てる 太さよりくねりを重視
香川県高松市鬼無町の北谷養盛園では、三代目の北谷和彦さん(54)と四代目の隆一さん(26)が年代ものの五葉松、山取りや島木の黒松を育てている。大観展で賞を得た錦松も所蔵する名園だ。
「鉢に上がってこそ」
「先々代が五葉松に力を入れていた」という和彦さんは、独特の盆栽観を持っている。それは「鉢に上がってこそ盆栽」という考え方である。大きければいい、太ければいいという風潮が強かった時代にも、先々代は細くてもくねったものを大切にした。木の「わび」「さび」は太さよりもくねりや、幹が立ち上がりから中心部にかけて細くなっていく「コケ順」にあると判断していたようだ。
五葉松は畑で自然に育てると、1年で10センチほど成長する。20年すると2メートルにもなる計算だ。和彦さんは大きく育てないように剪定(せんてい)で先を止め、枝を細いものに切り替えるなど、小まめな手入れを繰り返している。そのため、戦前に先々代が接ぎ木した五葉松も1メートル20センチほどの樹高で留まっている。大型ではあるが、二尺五寸程度の鉢なら鉢上げできるという。
大切な枝決め
盆栽の松は針金かけが決め手となるが、枝決めも大事な作業である。忌み枝やバランスの悪い枝を取り除く作業だ。いい木を長く見ていないとできないと言われるほど難しい技術。枝決めがうまくいくと、針金をかけなくても素晴らしい樹形を作ることができる。北谷養盛園には、針金をかけずに育てた五葉松も並んでいる。
鬼無の五葉松は、ほとんどが宮島系の「銀八ツ」。根元が太い「ねじ幹」で好評だ。太った枝を間引きすると、美しい姿を保つことができる。年月を経て、接いだ部分が分からなくなると、理想の五葉松が完成する。
和彦さんは「うちの五葉松は鬼無の中でも、特に葉が短いような気がする。多分、先々代が接いだ穂木の素性がよく、それ以後もほかから穂木が入っていないからだと思う」と話している。
(ライター・羽野茂雄)