針金かけ(下)枝によって太さを変えて
前回紹介した入念な下準備が終わると、いよいよ針金かけが始まる。針金かけは盆栽の値打ちまで決定づける花形の技術である。盆栽作家の誰もが憧(あこが)れる年季のいる仕事だ。香川県高松市鬼無町、出上吉洸園の出上文雄さんに円熟の技を見せてもらった。
基部から先端へ
ラフィアヤシのひもで保護した枝に針金をかけていく。かける順序は「下から上へ」「太い部分から細い部分へ」が定石だ。枝も一の枝、二の枝、三の枝の順に基部から先端に進める。出上さんは、樹高68センチ、左右95センチの黒松の枝ぶりを見極めながら7種類の太さの違う針金を巻いていく。
細かい手先の作業だが、よどみなく仕上げていく。時折盆樹から目を離し、全体のバランスを見ながら、枝と枝の間隔が広いと思える部分は、針金で枝を曲げて修正する。逆に枝が重なり合っている部分は横に広げて樹形を整える。鉢に植わったままの盆栽の枝ぶりを自在に変えていく高度な技である。
切った枝はジンにも
出上さんは無理な針金かけはしない。もう少し曲げたいと思っても、樹に極端な無理がかかるようだと次回に見送ることもある。針金かけは、植物の性質と相反する形にするもので、植物を痛めることにもなりかねないからである。
切除した不要な枝は、ジンにすると古木感を増す場合がある。2年ほど前に切除した枝もジンに変わった。
「枝を切る時にジンにすると有効なものを想像します。彫刻して時間がたつと自然に見えるようにするのがコツ。樹の持ち味を生かしきるのが私たちの仕事です」と話している。
出上さんは、アフターケアも大切にする。愛好家に販売した盆栽にも定期的な針金かけを続け、樹格向上に貢献している。
(ライター・羽野茂雄)